シムソンの定理

三角形 ABC のシムソン線
シムソン線(赤)は、スタイナーのデルトイド(青)に接する

幾何学におけるシムソンの定理とは、ABC外接円上の点 P から三角形の各辺 BC, CA, AB におろした垂線の足 L, N, M がすべて同一直線上にある(共線関係にある)という定理である。この直線のことをシムソン線シムソンライン)と呼ぶ。この定理はロバート・シムソンから名づけられた[1]。しかし、最初に1797年にこの概念を出版したのはウィリアム・ウォレス[2]である。

シムソン線の性質

  • 三角形の1つの頂点をPとすると、Pに対するシムソン線はPから対辺に下ろした垂線になる。またPを外接円の中心に対して頂点と対称の位置に取ると、Pに対するシムソン線は辺の1つと一致する。
  • Oを外接円の中心、PとP'を外接円上の点とする。Pに対するシムソン線とP'に対するシムソン線が成す角は、POP'の半分に等しい。特にPとP'が直径の両端にあるとき、2本のシムソン線は垂直に交わる。このときの交点は九点円上にある。
  • 三角形のABCの垂心をHとする。Pに対するシムソン線は、PHの中点を通る。
  • 共通の外接円を持つ2つの三角形があったとき、Pに対する2本のシムソン線が成す角はPによらず一定の値をとる。
  • シムソン線による包絡線はデルトイド(内サイクロイドの一種)となる。このデルトイドをスタイナーのデルトイドという。

証明

初等幾何による証明

初等幾何による証明
A,B,Cの内の点Pの右回り隣の点をA,左回り隣の点をB,対角点をCとする。

AとBは対角点だから∠PAC+∠CBP=180度。

∠PAC>90度の場合、AとBを入れ替えて∠PAC≦90度とする。 ∠PAC=90度の場合,∠CBP=90度,A=M,B=L,Nは直線AB上の点だからL,M,Nは同一直線上にある. ∠PAC<90度とする。

点A,P,N,Mは同一円周上にある。 A,P,B,C はこの順で外接円周上にあるから 直線BAに対してPとCは反対側にある。

∠PAC<90度だから(A→C)と(A→M)の向きが同じになるから ∠PAM=∠PAC…①

直線BAに対してPとMは反対側にある。 Nは直線BA上の点だから 直線NAに対してPとMは反対側にあるから NとAは四角形APNMの対角点となるから ∠PAM+∠MNP=180度…②

点P,L,B,Nは同一円周上にある。 B,C,A,P はこの順で外接円周上にあるから 直線BAに対してPとCは反対側にある。

∠CBP>90度だから 直線BAに対してLとCは反対側にあるから 直線BAに対してLとPは同じ側にある。

Nは直線BA上の点だから 直線BNに対してLとPは同じ側にあるから BNは四角形PLBNの対角線でない辺となるから ∠PNL=∠PBL…③

∠CBP>90度だから (B→L)と(B→C)の向きが180度異なるから∠PBL+∠CBP=180度. ∠PAC+∠CBP=180度だから ∠PBL=∠PAC…④

①,②,③,④から、∠MNP+∠PNL=180度。

したがって、3点L,M,Nは同一直線上にある。Q.E.D.

複素数による証明

複素数による証明

△ABCの外接円周上の点PからBC、CA、ABに下ろした垂線の足をL、M、Nとする。

外接円の中心に0を対応させ、点Pに1を対応させて、外接円を単位円とする座標をいれて、点 A,B,C,L,M,Nのそれぞれの位置の複素数をa,b,c,d,e,fとする。

x の共役複素数を x ¯ {\displaystyle {\bar {x}}} とすると

A,B,C,Pは単位円上の点だから、 | a | = | b | = | c | = 1. {\displaystyle |a|=|b|=|c|=1.} …(1)

PL と BC のなす角は直角だから、 ( d 1 ) ( c ¯ b ¯ ) + ( d ¯ 1 ) ( c b ) = 0. {\displaystyle (d-1)({\bar {c}}-{\bar {b}})+({\bar {d}}-1)(c-b)=0.} …(2)

L,B,C は同一直線上にあるから、 ( d b ) ( c ¯ b ¯ ) ( d ¯ b ¯ ) ( c b ) = 0. {\displaystyle (d-b)({\bar {c}}-{\bar {b}})-({\bar {d}}-{\bar {b}})(c-b)=0.} …(3)

b b ¯ = c c ¯ = | b | 2 = | c | 2 = 1 {\displaystyle b{\bar {b}}=c{\bar {c}}=|b|^{2}=|c|^{2}=1} である事を利用して、(1),(2),(3) のdに関する連立方程式を解くと、

2 d = b + c b c + 1. {\displaystyle 2d=b+c-bc+1.}

同様にして、 2 e = c + a c a + 1 ,     2 f = a + b a b + 1. {\displaystyle 2e=c+a-ca+1,\ \ 2f=a+b-ab+1.}

次に ( e d ) ( f ¯ d ¯ ) ( e ¯ d ¯ ) ( f d ) {\displaystyle (e-d)({\bar {f}}-{\bar {d}})-({\bar {e}}-{\bar {d}})(f-d)} を求めると、

4 ( ( e d ) ( f ¯ d ¯ ) ( e ¯ d ¯ ) ( f d ) ) = ( ( a ¯ b a b ¯ ) ( | c | 2 1 ) + ( b ¯ c b c ¯ ) ( | a | 2 1 ) + ( a c ¯ c a ¯ ) ( | b | 2 1 )   + a ( | c | 2 | b | 2 ) + b ( | a | 2 | c | 2 ) + c ( | b | 2 | a | 2 )   + a ¯ ( | b | 2 | c | 2 ) + b ¯ ( | c | 2 | a | 2 ) + c ¯ ( | a | 2 | b | 2 ) ) . {\displaystyle {\begin{aligned}4((e-d)({\bar {f}}-{\bar {d}})-({\bar {e}}-{\bar {d}})(f-d))&=(({\bar {a}}b-{\bar {ab}})(|c|^{2}-1)+({\bar {b}}c-{\bar {bc}})(|a|^{2}-1)+({\bar {ac}}-{\bar {ca}})(|b|^{2}-1)\\&\ +a(|c|^{2}-|b|^{2})+b(|a|^{2}-|c|^{2})+c(|b|^{2}-|a|^{2})\\&\ +{\bar {a}}(|b|^{2}-|c|^{2})+{\bar {b}}(|c|^{2}-|a|^{2})+{\bar {c}}(|a|^{2}-|b|^{2})).\end{aligned}}}

となり、 | a | = | b | = | c | = 1 {\displaystyle |a|=|b|=|c|=1} だから ( e d ) ( f ¯ d ¯ ) ( e ¯ d ¯ ) ( f d ) = 0 {\displaystyle (e-d)({\bar {f}}-{\bar {d}})-({\bar {e}}-{\bar {d}})(f-d)=0} となって、3点L,M,Nは同一直線上にある。Q.E.D.

参考文献

  • 清宮俊雄『幾何学 発見的研究法』(改訂版)科学新興新社、1988年3月。ISBN 978-4-89428-188-2。http://foruma.co.jp/sankousyo/sankousyo2679 
  • 清宮俊雄「4.7」『初等幾何学』裳華房〈基礎数学選書 7〉、2002年8月(原著1972年5月)。ISBN 978-4-7853-1107-0。https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1107-0.htm  - 2002年オンデマンド印刷で復刊。
  • 高木貞治『近世数学史談・数学雑談』(復刻版)共立出版、1996年12月、90-93頁。ISBN 978-4-320-01551-7。http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320015517 

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ “Gibson History 7 - Robert Simson”. 2008年11月11日閲覧。
  2. ^ “Simson Line from Interactive Mathematics Miscellany and Puzzles”. 2008年9月23日閲覧。

関連項目

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、シムソンの定理に関連するカテゴリがあります。
  • 『シムソンの定理とその2通りの証明』 - 高校数学の美しい物語
  • シムソンの定理 (PDF)
  • Jackson, Frank and Weisstein, Eric W. [in 英語]. "Simson Line". mathworld.wolfram.com (英語).
  • Simson Line: What is it? - Cut The Knot
  • 表示
  • 編集